横山FIRST活動サマリ
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富永淳二(とみなが・じゅんじ)産業総合技術研究所 ナノエレクトロニクス研究部門首席研究員1991年英国クランフィールド工科大学博士課程修了、Ph.D.(材料科学)。TDK開発研究所研究員、工業技術院次世代光基盤研究グループ長、産業技術総合研究所次世代光工学研究ラボ長、近接場光応用工学研究センター長を経て現職。専門は物理化学、材料科学、相変化メモリ、近接場光応用材料。2000年日本IBM科学賞(エレクトロニクス部門)、米国光学会(OSA)フェロー。43FIRSTプログラム成果報告 ◎ バックエンドデバイスではモーターを回さなくて済むため消費電力は小さく、可動部がないため信頼性も高いはずだと考えたからだった。 グリーン・ナノエレクトロニクスセンターのプロジェクトが始まる前には、相変化メモリ(PRAM)開発を手掛けていた。PRAMには光ディスクで使われたGeSbTe系のカルコゲナイド材料を使うからだ。PRAMの基本原理は素子間に電流を流し、カルゴゲナイド材料の結晶を溶かしてアモルファス状態にする。結晶は電流がよく流れるため抵抗が低く、アモルファス状態は流れにくいため抵抗が高い。その違いを利用して1、0を判別するのだ。この結晶を溶かす局所温度は650℃にも達した。 富永氏は、電流を熱に変えて材料の相転移を起こす過程で、入力した熱エネルギーの何%が利用されずに排熱されているのか、それまでの研究ではまったくと言っていいほど考慮していないことに気が付いた。損失は、熱力学第二法則「エントロピーの増大」に相当する。エントロピーを考慮して、結晶-アモルファス間の相転移を起こすスイッチングエネルギーを計算してみると、熱エネルギーのわずか5%しか使われておらず、95%の熱エネルギーが何も利用されず、外部に捨てられていることが分かった。 この損失は何に起因するのか。富永氏は、カルコゲナイド材料の基本元素であるGe・Sb・Teの構造を改めて考えてみた。この基本構造は、立方体の基本格子の8個の角にTeがあり、角と角の間にSbとGeのが配置されている(図1)。従来のアモルファス状態に相当するのは、TeやGe、Sbの位置が格子点から離れた状態である。 この格子点からの移動が起きる時にエントロピーを出して、それを外へ捨ててしまわなければならない。この状態から元に戻すときも記録動作によって一旦室温まで冷却されてしまうため、再度エントロピーを捨ててしまうことになる。大量のエントロピーの出し入れがあるために、エネルギー効率が悪くなり損失が大きくなることが分かった。エントロピーの増加がわずかな超格子を考案 損失を減らすためには、エントロピーの出し入れをできるだけ少なくするような構造にすればよい。なるべく配置を変えないで、電気抵抗値だけを変えたい。そのために富永氏は、Sb2Te3の結晶膜とGe2Te2の膜を交互に並べた超格子構造を考案した。超格子とは人工的に原子を格子状に並べた結晶である。これを繰り返し積層していくことで、自然界にない結晶をつくり出すこともできる。 そして、電圧をかけるとSb2Te3膜は実はほとんど動かずに、Ge2Te2の中のGe原子だけが膜に垂直な方向に向かって動くときだけ、抵抗値が変わることを見いだした。Ge原子はZ軸方向にしか動かず、X、Y軸の水平方向には動かない。つまり1軸方向しか動かないために、エントロピーの増加は最小になる。 この超格子構造を見いだすのに有効なツールは、量子力学的な計算を行うシミュレーションだ。SbとTeをベースにし、Geなどを配合するさまざまな原子の組み合わせがあり、それぞれを何百通りも計算しなければならない。しかし富永氏は「実は、経験がここで非常に役立つ。カルコゲナイド材料研究の経験が少ない若手研究者なら100通りも実験しなければならないかもし▶ カルコゲナイド材料を使った超格子構造のメモリを開発▶ カルコゲナイド材料のベストな組み合わせをシミュレーションで解明▶ 超格子相変化メモリの低消費電力化を実証▶ 超格子相変化メモリ構造がトポロジカル絶縁体であることを発見▶ 超格子相変化メモリが磁界にも反応し、磁気抵抗を20倍変化図1 赤く記したGe原子が動いて結晶構造を変える

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