横山FIRST活動サマリ
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  高輝度光科学研究センター  慶應義塾大学50 カーボンナノチューブ(CNT)は熱伝導率が高いことから、放熱材料として注目されている。しかし、熱伝導率を高くするためには、隣り合うCNT同士の間隔を狭めて高密度で成長させる必要がある。 私たちが、高密度CNTの成長法として有力視しているのが熱化学気相成長法(CVD)である。基板上に堆積した鉄(Fe)薄膜を触媒として用いる。基板を加熱すると、初期状態で酸化していたFeが還元されると共に微粒子(数十nm)になる。この微粒子にアセチレンなどの原料ガスを導入すると、Fe微粒子の上にCNTが成長する(図左)。 産総研の二瓶研究員のグループは、Fe薄膜の下にチタン(Ti)薄膜層を設けた触媒を用いるSTEP成長法で、従来より20倍のCNTの高密度化を達成した。しかし、なぜ高密度化するのか、理由が明らかではなかった。 そこで私たちは、放射光施設SPring-8において、化学状態の観測に有効な光電子分光法と、ナノスケールの形状変化の観測に有効な光電子顕微鏡(PEEM)を用いた。特に光電子分光では、Fe層(2nm)の下部にあるTi層(1nm)も分析するために、硬X線光電子分光(HAXPES)法を用いた。PEEMの観測結果(図右)から、従来の成長温度800℃ではFeが凝集し過ぎて数百nm程度の島状となるため、密度の低いCNTしか成長しないことが判明した。この結果から、Feの凝集が進行するより前の、より低温での成長が必要であることが分かった。 STEP成長では、下地のTi層がFe層の化学状態に影響を及ぼしている可能性がある。そこで、Ti層のHAXPES観測を行ったところ、450℃でTiの酸化が著しく進行している結果が得られた。つまり、Ti層がFe層の酸素を吸収するために、低温の450℃でもFeの還元が進行したと考えられる。今回の放射光による分析から、Ti層が低温でのFe層の触媒活性を促す活性剤として機能していることが明らかとなった。このTi層の存在によって可能となる低温成長が、STEP成長におけるCNTの高密度化の原因である。 大規模集積回路(LSI)チップを積層した3次元集積におけるTSV(Through Silicon Via)技術は、チップの縦積み実装によって難しくなった放熱問題を解決できる可能性がある。具体的には、貫通ビアの材料をカーボンナノチューブ(CNT)束に換えることが有効と考えられている。CNTはその熱伝導率の高さから優れた放熱性を有しており、また電流密度耐性も高いため、TSVの貫通ビアとして適した材料である。そこで、TSV積層構造の1層分を想定した基板貫通ビアモデルの3次元熱シミュレーションを行い、各種構造および材料依存性について検討した。 実デバイスに近い条件での解析を目指し、発熱面積としてスーパーコンピュータ用プロセサ(富士通SPARC64 X)のコア面積を仮定し、モデルを構築した。比較する従来構造としては、アルミニウム(Al)ヒートシンク蓋、銅パッケージ(Cu-LID)、シリコン(Si)基板を積層させ、チップに発熱体を載せ、ヒートシンク-LID間とLID-シリコン基板間はそれぞれSiグリースとハンダTIM(Thermal Interface Material)で熱的に接続している構造を仮定した。発熱体から流れ込む熱量は、発熱体と基板の境界温度が105℃になる熱量とした(図左)。 一方、ナノカーボン放熱構造としては、発熱体直下の基板内に直径50μmのCNTビアを1000本埋め込み、TIM材料をハンダからCNTに換え、LID材料をCuからグラファイトに換えた(図右)。 これらのチップ境界温度がどのように変化するのかを調べるため、数値解析を行った。シミュレーションでは、有限体積法熱流体解析ソフトウェアANSYS Icepakを使用した。さらにビア本数、直径などの依存性についても調べた。その結果、従来構造に比べて、ナノカーボン放熱構造では、境界温度が約47℃低下し、優れた放熱特性が得られることが分かった。また、ビアの総面積が等しい場合、ビア直径がより細く、本数が多いほど、境界温度が低下した。放射光分光法によるカーボンナノチューブの高密度成長メカニズムの解明LSI 3次元実装のためのナノカーボンによる高放熱デバイスの数値解析高輝度光科学研究センター利用研究促進部門室 隆桂之主幹研究員慶應義塾大学理工学部電子工学科粟野祐二教授委託研究成果

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