主要研究実績

1.1 新材料・新構造CMOS技術の研究開発

ゲルマニウム(Ge)ナノワイヤトランジスタにおいて、
世界最高レベルの電流値と正孔移動度を実現

幅20nm程度のGeナノワイヤをチャネル(トランジスタの電流経路)とするMOSトランジスタを試作し、従来用いられているシリコン(Si)に比べ、著しく高い正孔移動度を観測しました。これは、GeチャネルがもともとSiよりも高い移動度を有しているのに加え、Geの結晶格子に大きな”ひずみ”を導入した効果です。その結果、同様構造の従来素子との比較において世界最高レベルの電流値が得られました。この成果を用いることで、低電圧で動作する、消費電力の非常に低いLSIの実現が期待されます。

断面の透過電子顕微鏡像
断面の透過電子顕微鏡像
試作トランジスタの正孔移動度
試作トランジスタの正孔移動度

1.2 新動作原理CMOSデバイスの研究開発

SS=33mV/decade の急峻なスイッチング特性を実証

新動作原理CMOSデバイスの研究開発イメージ 新動作原理CMOSデバイスの研究開発イメージ

トランジスタのスイッチング特性は、電流を1桁変化させるために必要なゲート電圧の振れ幅(SS値)で表わされます。従来型FETの理論限界はSS=60mV/decadeですが、この値が小さいほど、小さなゲート電圧の変化でドレイン電流が大きく変化し、急峻なスイッチング特性が得られます。

我々は2011年度、ゲート絶縁膜の薄膜化(SiO2換算膜厚で0.9 nm)と、フラッシュランプアニールによるドーパントプロファイルの急峻化を行うことで、SS=33mV/decadeの急峻なスイッチング特性を持つトンネルトランジスタ(TFET)が実現できました。

これ等の成果をもとに、新たな半導体材料の導入などを進めるなどして、更なる高ドライブ電流と急峻なスイッチング特性を実現するための開発を続けています。


新型トランジスタ特性予測用シミュレータを開発

新型トランジスタ特性予測用シミュレータを開発

TCAD (Technology CAD) は、半導体デバイスの特性を予測する重要なシミュレーションツールです。これまでのTCADは従来型トランジスタを前提に作られていたため、新しい材料や構造、特にトンネルトランジスタ(TFET)のような強い電界下での電子の挙動は考慮されていませんでした。

2011年度、我々はバンド間遷移トンネル過程の精密なモデリングを行い、トンネル方向を動的に探索することで、精密なTFETの性能予測が可能となるシミュレーションモジュールを開発しました。このモジュールをHyENEXSS™ TCADに搭載し、立体構造チャネルのTFETの可能性、あるいは新半導体材料TFETの性能予測等に活用しています。

※ HyENEXSS™, ver. 5.5, Selete, 2011

2.1 グラフェンの合成とトランジスタ応用

ヘリウムイオンの照射により、グラフェンを半導体化することに成功

グラフェンは高い移動度を持ち、トランジスタチャネルへの応用が期待されています。しかし、グラフェンにはバンドギャップが存在しないため、トランジスタとしたとき、高いオン・オフ比が得られないことが問題となっています。

今回我々は、世界で初めて、ヘリウムイオンを照射することによりグラフェンにトランスポートギャップを形成することに成功しました。またヘリウム照射グラフェンをチャネルとしてトランジスタを作製し、室温において高いオン・オフ比を得ました。

S. Nakaharai et al., SSDM 2012

新型トランジスタ特性予測用シミュレータを開発
新型トランジスタ特性予測用シミュレータを開発

銅膜の細い双晶上に、自己組織的にグラフェンナノリボンを形成することに成功

銅膜、グラフェン、銅双晶 走査電子顕微鏡像イメージ
走査電子顕微鏡像

グラフェンは高い移動度を持ち、トランジスタチャネルへの応用が期待されています。しかし、グラフェンにはバンドギャップが存在しないため、バンドギャップ形成を目指した「グラフェンのナノリボン化」が、主としてトップダウン的手法により試みられています。

今回我々は、世界で初めて、銅の細い双晶上にグラフェンナノリボンが選択的に形成されることに見出しました。今回得られたナノリボンの幅は最小90nm程度ですが、今後双晶の幅を制御することにより、より細いナノリボンを得ることも可能です。

今回のようなボトムアップ的手法を用いることにより、トップダウン的手法では困難である、ナノリボンのエッジの制御が可能となることが期待されています。

K. Hayashi, et al. J. Am. Chem. Soc., 134 , 12492 (2012)

2.2 CNT/グラフェンの排熱応用

縦方向配線及び排熱基板ビア向けのCNT稠密成長を実現

CNT稠密構造の電子顕微鏡像
CNT稠密構造の電子顕微鏡像

CNTやグラフェンは熱伝導率も高いため、配線材料としてばかりでなく、LSIの内部で発生する熱を排出するための、排熱ビアとしての応用も期待されています。縦方向配線の電気抵抗を低くし、熱を効率的に排出するためには、基板に開けた穴の中に高密度にCNTを成長することが必要です。

我々は触媒と成長条件を最適化することにより、従来CNT膜比10倍(1.4g/cm³)の高密度縦方向成長を実現しました。 


微細CNT電極を利用したReRAMの低電流スイッチング動作を確認

ReRAM (Resistance Random Access Memory) は、電圧の印加による電気抵抗の変化を利用した新たな低消費電力型メモリとして、近年盛んに研究されています。電極サイズが小さいほど、流れる電流が少なくなるため消費電力も小さくなりますが、我々は直径10nm以下のCNTを電極として利用することにより、ピコアンペア(pA)レベルの極低電流でスイッチング(メモリの書き換え)動作をすることが確認できました。 

CNTカンチレバーAFMによるTiO2/Ti構造のReRAM動作実験
CNTカンチレバーAFMによるTiO2/Ti構造の
ReRAM動作実験
Set電流の関係の探針径依存性
Set電流の関係の探針径依存性

H. Nakano et al., Extended Abstracts of the 2011 International Conference on Solid State Devices and Materials, Nagoya, 2011, pp773-774

3.1 相変化膜超格子素子の低電圧材料・プロセス技術の開発

相変化固体メモリーから巨大磁気抵抗効果が出現

相変化メモリ材料として研究しているGeTe/SbTe超格子が、磁性材料を一切含まないにもかかわらず、巨大な磁気抵抗効果を発現することが見出されました。 0.1テスラの磁場があるとき(青線)とないとき(赤、灰色線)では、ある電流での抵抗値が室温で2000%も変化しています。この効果を利用して、従来のハードディスクやフラッシュメモリを置き換える、全く新しい低消費電力メモリが実現できる可能性があります。

Appl. Phys. Lett. 99, 152105 (2011)
Copyright: American Institute of Physics